サミュエル・ローランド・ホールが1920年代に提唱した消費行動仮説「AIDMAの法則」にもあるように、人々の購買行動には「欲求」が必要であり、売り手側は「その欲求(ニーズ)を喚起する」ことが 商品販売の第一歩です。AIDMAの法則とは、「人々は下記5つのステップを辿りながら購買を決定する」という考え方です。
A:Attention(注意) ⇒注意を引かれる
I:Interest(関心) ⇒商品に関心を持つ
D:Desire(欲求) ⇒商品に対する欲求を感じる
M:Memory(記憶) ⇒発生した欲求が醸成される
A:Action(行動) ⇒購入する
近年では「AIDA」「AIDCA」「AIDAS」もモデルもあり、今日ではネット版AIDMAである「AISAS」モデルも提唱されています。
A:Attention(注意)
I:Interest(関心)
S:Search(検索)
A:Action(行動)
S:Share(共有)
いずれのモデルにしろ、「A」「I」は必須なようです。そして、それが「ニーズ喚起」なのです。 そうなると問題は「いかにして顧客のニーズを喚起するのか」、つまり「欲しい!」と思わせるのかとい うことになりますね。
そこで、いろいろな商品の販売促進方法をよく見てみると、世の中にある大半の商品のニーズ喚起は「比較販売」により行われていることがわかります。
「新発売のこの商品は他社の●●より××です。」
「新発売のこの商品は従来の商品より▲▲です。」
・・・といった具合です。もちろん消費者も自ずと比較しているのです。 つまり、家・車をはじめ、100円ショップの商品に至るまで、ほとんどの商品は「比較」されることで ニーズ喚起されています。その理由は簡単です。大半の商品カテゴリーへの欲求は「すでに顕在化」しているからです。例えばクルマ。欲しいですよね。ニーズは顕在化しています。改めて車の効果効能を訴求する必要はないでしょう。そういった多くの商品の差異性は味覚、触覚等の五感で明確に認識することができるのです。また「味噌・醤油」も同じです。なければ困ります。在庫がなければ言われなくても買いに行きます。味噌・醤油の類であるコモディティ商品を中心として、その商品の必要性を説明する余地は、ほぼ皆無です。ところが もし「ニーズが顕在化」していない商品の場合はどうしましょう? よくある例えで言うと「エスキモー に冷蔵庫を売る場合」です。きっと、相手は「必要ない」と思っているでしょう。そんな相手に「今度発売された当社の冷蔵庫はA社製品と・・・」と力説したところで響きませんね。
保険販売も同じです。 多くの人々が「顕在的に欲求を感じていない」という点ではエスキモーの話と大差ありません。ということは、どうやら「比較販売」ではうまくいきそうにもありません。 困りました・・・。
そもそも目に見えない保険商品は、本来的に比較することがとても難しいものです。日常的に目で見たり味わったり、触れたりできないために、違いを認識する努力が面倒です。たとえ、あなたと面談して説明されても、内容を理解し、手渡されたパンフレットを読み込むことは大半の人にとっては苦痛で優先順位 が低いアクションとなります。売り手はそれが仕事ですから、「この商品のココが優れている…」など、 細かに説明しますが、大半の見込み客にとっては記憶に留まらない程度のものです。結果として細かな 相違点に拘ることなく「どこも同じ」という漠然とした認識を得るに至ります。皆さんだって、買い手の立場ならそう思うのではありませんか?
従って一旦何らかのきっかけで加入してしまうと、もう更なる購買・買い替え意欲は生まれにくくなります。その辺りが洋服や車と異なるところ。そんな認識の見込客に「いい保険なんです」といくら訴えたところで、その 声は届きません。いずれにしろ「もう入っているからいいよ」となります。厄介ですね。つまり…
保険に関して多くの人々は常に満腹だ!
ニーズを感じない状態、あるいはあるとしても潜在化しているニーズなのです。ですから、改めて検討することの必要性を訴えてお腹を空かせてもらわないと、その先には進みません。面談して、再検討してみる必要性を感じてもらわない限り、次回のアポイントは取れないのです。そうなると、初回面談の目的はただ1つです。顧客からの“声なき声”に耳を傾けて、この質問に答えること。
なぜ今、私はあなたの話を聞く必要があるのですか?
この質問に答えることこそ、AIDMAのAIであり「保険版ニーズ喚起」なのです。
このことをテーマに顧客と徹底的した会話のやり取りが不可欠なのです。生保商品はその代表格ですが損保商品もサイバーなどの最近の商品はニーズ喚起が不可欠です。また、いったん加入してしまうと、再検討する気がなかなか起きない、という意味で生保と同じです。「いやいや、損保なら”保険料が変わらな ければお前から入ってもいいよ”という人が割といる」という声も聞こえてきそうですね。私も生保時代 に「損保はやってないの?」「損保ならねぇ・・・」と何度か言われました。でもそんな人、何人くらいいますか? 50名ですか?100名いますか? 生保も損保も入れ替えの時代です。ただし、入れ替える には入れ替える“だけの”「必要性・必然性」が必要です。そして、その「必要性・必然性」は皆さんが問いかけることで初めて発生するのです。もっと言えば発生させるのです。そうでなければ商談が始まりません。
でもこの「ニーズ喚起」、簡単そうで結構難しいのです。
面談相手が知り合いでも「じゃ、一度見直してみようか」とは、なかなかなりません。初対面であれば なおさらですね。しかも、あなたが一通り保険の話をしたあとで「なるほどね、帰ってから嫁さんに話してみるよ」なんてことに。「検討するかどうかも嫁さん次第」という、なんとも「ピンとこない」結末で終わることも日常茶飯事です。法人であれば「先代から付き合いのある保険会社があるからゴメンナサ イ」ということにもなりがちです。 生保時代にカーディーラーから成績がトップクラスの営業マンAさんが転職してきましたが、全く売れずに低空飛行を続け退職してしまいました。営業車は別として、首都圏の生活においてクルマは多分にウォンツ商品。しかも定期的に買い替えのニーズも出てくる。「競争力のある商品」「販売戦略」「営業力」が嚙み合えば、そこそこ売れそうですね。Aさんがこれまでの営業活動において「なぜ車が必要なのか」「ここで車の必要性について考えてみる意義はどこにあるのか」を顧客へ問いかけたことは1度もなかったことでしょう。味噌や醤油も同じです。されても、きっと気味悪いですよね …。
「なぜ現在の生活において醤油が必要なのか」改めて言われないと気づきませんか? ファッションもそうです。言われなくても“なくては困る”し、”いくらでも欲しい”のです。だから自ら進んで買いに行きますし、雑誌やネットで研究に余念がない、といったことにもなります。
でも…残念ながら往々にして保険販売において、皆さんが親しんできた「比較話法」では売れないのですね。
さあ、あなたなら、どんな導き方をしますか?
前職の新人時代に読み漁った本のなかにゼロックスのセールスマンが書いた本がありました。 その一説にこんな件(くだり)があります。
セールスマンは顧客に”無罪”であることを証明しなくてはならない
保険商品(特に生保商品)へのニーズは潜在化しているがために、時として押しつけがましい売り方になることもしばしば。そんなところから「生保の人には会いたくない」といったことになるわけです。つまり 「自分の売りたいものを売りつける罪人」。だから「有罪」といった感じでしょうか? もちろん保険に限った話ではないのですが。そこで先ほどの質問です。「なぜ今、私はあなたの話を聞く必要があるのか?」という 質問が、実際に顧客から発せられることは恐らくないでしょう。でもあなたは答えなくてはいけません。 なぜなら…
その答えこそがあなたの無罪を証明する唯一の道
…だからです。