生保時代、隣の営業所に某有名大学の体育会ラグビー部出身の営業マンBさんが入社してきました。体育 会ですから、そのタテ社会は卒業しても一生継続されます。入社当初から目覚ましい実績を挙げ、3ヵ月目には200名の支社で単月トップにまでなりました。体育会人脈をフル活用した、前途洋々たる保険販売 人生のスタートです。ところが…5か月目に退職してしまいました。 あんなに鮮烈なデビューだったのになぜ?

あとで聞いた話ですが、体育会の先輩から「おまえ、こんなことしていたら友達なくすぞ」と言われたこ とがショックで、急に手足が止まってしまい退職したとのことです。恐らくBさんは「自分の行動が相手にとっては迷惑以外の何ものでもない」というメンタルブロックに押しつぶされてしまったのでしょう。 せっかく辞めなくてもいい会社をあえて退職して飛び込んできたのに残念です。もう前職に戻ることも できません。

さて、Bさんの何がいけなかったのでしょうか?

もしかすると彼は知り合いに甘えて「自分のための商談」を繰り返してしまったのかもしれません。 少なくとも彼の先輩はそう思った、ということなのでしょう。それでは彼には「顧客のため」という想いはなかったのでしょうか?

きっとあったはずです。でも結局その想いは伝わりませんでした。実は初期のベースマーケットにおける営業活動には大きな落とし穴が待っているのです。よく考えて営業しないと、きっと後になって、あなたは「失ったものの大きさ」に愕然とすることになります。ですからここで、保険販売初期の皆さんには 特に言っておきたいことがあります。

ベースマーケットでの営業は難しい!   

≪ベースマーケット営業が難しい5つのハードル+1つの理由≫  


【5つのハードル】   
①アカの他人であればできるはずの「ニーズ喚起」も知り合いだと気恥ずかしくて疎かになる   
②上記①も含め、商談相手に甘えて曖昧な提案内容で済ませてしまう   
③一方、どんなにいい商談内容でも相手は「○○だから入ってやる」という想いが先行している   
④その結果、あなたの想いが(あったとしても)額面通りには届かない   
⑤最終的に「人間関係を換金した」だけの商談に終り、相手は「義務を果たした」とホッとする


【1つの理由】   
そもそも、あなたが意志と情熱を持って転職したとは思っていない  

余談ですが、人間は弱い生き物です。ちょっとしたことがメンタルブロックにつながります。一例ですが 保険会社の名刺を出せば、たとえ口にしなくても相手は「保険に入ってほしいんだろうなぁ」と思いますよね? それはそれでいいわけです。当たり前のことですから。 でも「相手がそう思っているだろうなぁ」と考えてしまうこと自体がメンタルブロックとなるのです。

それはさておき、私は保険販売についてこう思います。 初対面の際、元々はお願いして時間をいただいたとして、その時間の最後には「いい時間を過ごした」 と相手に思ってもらう。いや思わせるのです。この気構えが大切だということです。 言い換えれば、短い時間で「先生と生徒の関係を構築できるか」が重要なポイントです。

きっとBさんは「お願い」をベースにした商談を繰り返したのではないでしょうか。そして、そのことを指摘されたために卑屈な気持ちになり意識が途切れてしまったのかもしれません。 今となっては推測ですが…。

メンタルブロックとは「良いことをしていると思えず、一歩を踏み出せなくなる」要因のことです。 保険販売から、このメンタルブロックを取り除くことはとても難しいことです。多くの人にとっては不可 避的に体験する活動障壁となるでしょう。

この国においては、セールスマンという言葉に良いイメージはありません。「セールスマン自身や会社にとって都合の良い商品を売りつける」といったイメージでしょうか。最近は見かけませんが、表札の横に 「セールスお断り」と貼ってあるのは日本くらいとのことです。ですから、企業では現場の営業を早く卒業してスタッフ職になりたいと切望する人もいるでしょう。現場の営業を「兵隊」と形容する会社も 散見されます。いくらでも「替えがきく」イメージです。現場の営業職よりも本社スタッフ職が「偉い」 かのような勘違い発言もまま見受けられます。ただでさえ、セールス・営業の地位が向上しにくい環境の中で、保険販売は特に地位が低く見られがちです。私見ですが、この傾向は損保営業よりも生保営業に顕著に現れる気がします。

これは戦争未亡人活用による業界の歴史的成り立ちが「生保は売り手の生活を助ける商品」というイメ ージを定着させ、さらに職員全員に画一的な保険商品を販売することを強いてきた過去のプロモーション 政策が「保険なんて、どこで加入しても同じ」という印象を多くの人の心に植え付けたことが原因です。 生保における「保険に付き合う」という表現も他の業界ではなかなか聞かないですね。お付き合いでマン ション買いますか? つまり、保険本来の意義などというものは長らく多くの人々にとってはどうでも いいことだったのです。意義を感じてもらえないのですから、”保険会社のGNP”に代表されるような 商品価値とは無関係の角度からのアプローチ手法が発達します。要は正面から販売することに腰が引ける わけです。ご存知ですか?保険会社のGNP。「G=義理」「 N=人情」「P=プレゼント」を指します。 GDP以前に重要視されていた経済指標であるGNPの名称を借りて皮肉っているわけです。要は保険商品 とは全く関係のないところの勝負に持ち込む作戦ということです。また、「法人同士の取引関係等を利用 し、新入社員を半ば強制的に加入させる」であるとか「占いなどの保険とは関係ないツールで誕生日情報 を収集し、一方的に設計書を作成してくる」であるとか…。今では少なくなったと思いますが、かつ てはこんな販売手法が横行していたわけです。こんなことを繰り返しているうちに、多くの保険プレイヤ ーは当初は持っていたかもしれない理想や目標を見失っていきます。そしてついには「生活のためだけ」 に働くようになってしまうのです。戦後から健全な保険販売活動をしてこなかったツケが未だに尾を引い ているのですね。

この項目の最後に…。
基本的に商談数を超える契約数はありません。当たり前ですね。セールスプロセスの各段階を着実に昇り 、断られずに最後まで行き着いた場合に成約です。恐らく成約率5割は難しいでしょうから、商談の半分 以上は断られることになります。今、あなたが数十年来の親友に保険の話を持ちかけ、断られてしまったとします。往々にして「頭では受け入れても、感情的には落ち込む」ことになります。人によっては、そ んな体験がメンタルブロックとなり、電話に手が向かわなくなることもあります。なんとなく、「自分を否定された」といった想いに囚われるからです。でも、実際に断られたのは「保険の話」でしかありませ ん。当然ですが「あなた自身」ではないのです。

仮にクルマの販売があなたの仕事だとして、新車を購入したばかりの親友から断られたとしても、傷つかないですよね。保険も同じ。その人にはその人なりの事情があるだけなのです。でも、なかなかそう思え ないのは仕方ありません。元々、商売人ではないのですから。あなたは「商売として頭を下げている」だけであり、そのことはあなたの人格・価値とは無関係です。商売とはそういうものです。だからドライに割りきりましょう。もう歴とした商売人なのですから。もっとも、経験だけが特効薬なので、簡単に割り切ることは難しいのかもしれません。だから私はいつもこう思うことにしています。あるいは、こう思える営業活動を心掛けてきたつもりです。

私は顧客にとって価値あるものを提案し          
          顧客はそのために等価の金銭を支払う

そうです。保険だって「買いもの」なのです。価値のないものを売りつけている訳ではありませんね? そうなのですから結局、メンタルブロックの克服は…

自分の営業活動に価値があると思えるかどうか?

そう思うことができるように努力を積み重ねて行きましょう。